「パウロのイスラエルへの愛④」
聖書:ロマ9章1節~5節
牧師:佐藤勝徳

【はじめに】 契約の民イスラエル
パウロが、同胞イスラエルを愛して彼らの救い為に断腸の思いで祈る第4番目の理由を「契約は彼らのものだから」と教えています。神さまがイスラエル民族と結ばれた契約は5つあります。①「シナイ契約(モーセ契約/条件付き契約/従えば祝福、背けば呪い)」、②「アブラハム契約」、③「土地の契約/(モアブ契約)」、④ダビデ契約」、⑤「新しい契約」の五つです。②~⑤の契約は無条件契約で、イスラエルの在り方如何には関係なく、神さまが一方的な恵みによって必ず実現し成就させられる契約です。イスラエルは正に、全知全能の偉大なる神が「契約の民」として特別に選ばれた唯一の民族なのです。パウロは、ユダヤ人が単に自分の同胞だからという事でなく、彼らが全知全能の創造主の神が愛と憐れみによって5つの契約を結んで下さった「契約の民」だからという事で深く愛したのです。
1、アブラハム契約
今日は、神がイスラエルと結ばれた契約の中の「アブラハム契約」について学びます。創世記でアブラハム契約の記録は11か所あります。                                  ①創世記12章1節~3節
第1回目の契約は、アブラハムがカナンの地(現代のパレスチナ)にやって来る前に在住していたハランで交わされました。契約条項は1)「アブラハムが大いなる国民となる」。2)「アブラハムは万民を祝福する者となる」。3)「アブラハムを祝福する者は祝福され、呪う者は呪われる」。アブラハムを祝福する者は祝福されるという契約は、イスラエル民族に継承されて行きました(参照:民24:5/ミカ6:5)。       ②創世記12章6節・7節
第2回目の契約は、シケムにおいて交わされ、「カナンの全土をアブラハムの子孫に与える」という契約が結ばれました。                                             ③創世記13章14節~17節
第3回目契約は、アブラハムがベテルとアイの間から見渡したカナンの全土の内、彼が歩いた範囲を与えるという契約が交わされました。15節の「あなたの子孫」は、キリストの事を預言しているとパウロは教えています(ガラ3:16)。
④創世記15章5節~7節
第4回目の契約は、アブラハムがシャレムの王メルキゼデクによって祝福された後で交わされました。「彼の子孫が夜空の星のように多くなる」という契約が結ばれました。その約束を信じたアブラハムは神から「義と認められた」のです。
⑤15章17節~19節
第5回目の契約では、アブラハムと子孫イスラエルにカナンの地を与える約束を再度交わされましたが、その時に、それが無条件契約である事を煙立つかまどと燃える松明だけが通った事でその契約が無条件契約(片務契約)だという事を示されました。煙立つかまどと燃える松明には神が実際に臨在されておられました。神さまがある物質にご自分を臨在させて栄光を顕される事を「シャカイナグロリー」と言います。古代の中近東では、契約を交わす契約者同士が裂かれた動物の間を通る契約を「血の契約/双務契約」と呼んでいました。それは、両者が契約を破れば裂かれた動物の様に殺されても良いという、命をかけた契約であったからです。15章17節~19節におけるアブラハム契約では、裂かれた動物の間を神さまだけが通られ、アブラハムは通る事をしませんでした。それ故に、その契約は、神さまご自身だけが命をかけて必ず実現しなければならないという責任をご自身に課せられました。アブラハムにはその契約の実現の為の責任が求められていませんのでアブラハム側からすれば「無条件契約」となっているのです。                               ⑥創世記17章1節~8節
第6回目の契約では、アブラハムの子孫の増大の約束とアブラハムは多くの国民の父となり多くの王が出るという約束と、契約はアブラハムとその子孫とに対して結ばれ、神がアブラハムの神となり彼の子孫の神となるという約束と、カナンの全土がアブラハムとその子孫の永遠の所有となるという約束が交わされました。                                               ⑦創世記18章17節~19節
第7回目の契約では、アブラハムが大いなる強い国民になる事と、万民がアブラハムによって祝福される事と、神がアブラハム契約を必ず成就させる事が約束されました。
⑧創世記22章15節~18節
第8回目の契約は、モリヤの山でのイサク献祭の時に交わされたもので、アブラハムの祝福と子孫増大と彼の子孫によって世界の諸国が祝福を受けるという約束が交わされました。
⑨創世記26章2節~5節
第9回目の契約は、アブラハムが神さまに従ったゆえに、約束の土地の付与と子孫の増大と子孫によって地のすべての国々が祝福されるという「アブラハム契約」がイサクに継承された事が教えられています。アブラハムの子孫には、ハガルによって生まれたイシュマエルと、サラの死後、結婚したケトラによって生まれた6人の男の子がいましたが、アブラハムに約束されたアブラハム契約の継承者の子孫は、イサクとその子孫に限定されました。
⑩創世記28章13節~15節
第10回目の契約では、アブラハム契約がイサクの子ヤコブに継承された事が教えられていますが、その中で特徴的な約束は、ちりの様に増大したヤコブの子孫であるイスラエルが、東西南北世界各地に広がって、地上の全ての民族が祝福されるという「祝福の約束」で。
⑪創世記35章11節~12節
第11回目の契約では、ヤコブの名が改めて「イスラエル」でなければならないと命じられています。又、ヤコブの子孫が一つの国民となり、その国民が12部族によってなり、王たちが出るという王政国家になる事が約束されています。
以上の創世記において交わされた11回に渡るアブラハム契約の主な約束は「約束の土地の付与」「子孫の増大」「万民を祝福する」「メシヤの到来」の四つです。それが、アブラハムからイサク、イサクからヤコブ、ヤコブからイスラエル12部族へと受け継がれて行きました。(以下の図を参照)

以上のアブラハム契約を神が必ずイスラエルに実現されるお方である事を意味して、神はご自身の事を約200回「イスラエルの神」だと繰り返し啓示され、又、「アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神」だと約20回繰り返し啓示されています。ルカによる福音書では、バプテスマのヨハネが産まれた時、父ザカリヤが聖霊に満たされて、神がアブラハムと結ばれた聖なる契約を覚えて、イスラエルを祝福する為に、息子ヨハネを奇跡によって誕生させられた事を賛美しています(参照 ルカ1:67~74)。アブラハム契約は、やがてキリストが再臨された時に全て実現するのです、その世界を神学的には「メシヤ的王国」と呼ばれています。
パウロは、世界を祝福するという尊い使命を受けた同胞イスラエルが、その使命を果たすことを可能にして下さるイエス・キリストを否定している現状に心を痛め、同胞のイスラエルが聖霊によって目が開かれ、ナザレのイエス・キリストを旧約聖書が約束している「メシヤ」だと信じて救われ、キリストにあって世界を祝福する民となるように断腸の思いで祈りました。私達キリスト者も、アブラハムの霊的子孫として(参照ロマ4:16)、世界を祝福する使命が与えられていますが、同時にイスラエルを祝福する使命が与えられていますので、パウロの祈りに心を合わせてイスラエルの救いと祝福を切に祈りましょう!                                             このメッセージをお読みの全て方々が、現在の世界に拡大しつつあるイスラエルを呪う「反ユダヤ主義」から解放され、これまで、世界の救いと祝福の為に救い主イエス・キリストを世界に送ってくれましたユダヤ人、聖書66巻を世界に与えてくれましたユダヤ人、創造主の神によって「アブラハム契約」に与っているユダヤ人を祝福する人となられるようにお祈りしています。