「パウロのイスラエルへの愛⑥」
聖書:ローマ9章1節~5節
牧師:佐藤勝徳
【はじめに】
パウロのイスラエルを愛する理由として「契約は彼らのものである」と、神がイスラエルを愛して交わされた契約を取り上げています。これまで「アブラハム契約」と「モーセ契約」について学んできましたが、今日は「モアブ契約」という「土地の契約」について学びたいと思います。
1、土地の所有権は無条件でイスラエルに与えられている。
モアブ契約で先ず確認しておきたいことは、神さまが南はエジプト川から、北はユフラテス川までの範囲を、アブラハム契約で既に無条件契約としてイスラエルに所有権を与えておられる事です。それは、創世記15章で神さまが、アブラハムと「土地の付与契約」を結ばれた時、裂かれた動物の間を通られたのが神さまだけであった事によって示されました。モアブ契約によって、その「土地の所有」が永遠にiイスラエルに与えられている事を教えられました。イスラエルは、これまでの歴史で、まだ、全面的に実際に約束の土地を所有した事はありません。何故でしょうか。それはモアブ契約によります。
2、モアブ契約の条件性
イスラエルの土地の実質的全面的所有と土地の祝福は従順という条件満たす必要がある事をモアブ契約は教えている。それがモアブ契約の条件性です。約束の土地で、イスラエルが祝福を受けるか呪いを受けるかは、従順か不従順かという条件にかかっている事をモアブの地で神さまは「モアブ契約」で教えておられます。土地の所有権は無条件ですが、その地の全面的実質的に所有とその地における祝福を受けるには従順という条件を満たすことが求められました。。その「モアブ契約」が申命記29章~30章で教えられています。「申29:1 これは、モアブの地で、【主】がモーセに命じてイスラエル人と結ばせた契約のことばである。ホレブで彼らと結ばれた契約とは別である。」。この「モアブ契約」は最初は「ホレブ契約」様に、従えば祝福、不従順であれば呪いという条件契約として提示され、にこれまでの荒野の40年間について回顧されいます。(29:5~29)
3、荒野40年の回顧
神さまが、イスラエルの祝福をどれだけ熱く願っておられるのか、荒野40年の回顧を通して教えられています。又、「モアブ契約」を神さまが結ばれる目的は、イスラエルの民を、アブラハム契約に従って、「神の民」とし、神ご自身が「イスラエルの神」となる為だと教えられています(申29:12~15)。神とイスラエルが深い愛の関係が結ばれる事が「契約締結」の目的です。その条件契約は、荒野を放浪しているイスラエルだけでなく、未来の全てのイスラエルの民と結ぶ「契約」だと、教えられています。「申29:14 しかし、私は、ただあなたがたとだけ、この契約とのろいの誓いとを結ぶのではない。 29:15 きょう、ここで、私たちの神、【主】の前に、私たちとともに立っている者、ならびに、きょう、ここに、私たちとともにいない者に対しても結ぶのである。」
4、イスラエルは苦悩に満ちた離散の民となる
以上のように、従えば祝福、不従順であれば呪いという「モアブ契約」に基づいて、不従順となったイスラルは呪われて、世界に散らされる事が預言されています。裁かれたイスラエルの状態を見て、世界の国々が、イスラエルが裁かれたのは、「イスラエルは神との契約を破り、偶像崇拝者になったからだ」とののしるのです。(申29:24~28)。28節の「この地から、根こぎにし、他の地に投げ捨てた」という、世界離散の預言は、AD70年ローマによってイスラエルが滅ぼされた時に実現しました。その時に、3分の1のユダヤ人は殺され、3分の1のユダヤ人は奴隷となり、3分の1のユダヤ人は世界に散らされたのです。
5、離散の地で従順となるならば、約束の地への帰還と祝福が約束される
不信仰の故に世界に散らされたユダヤ人が、その散らされた国々で、神に聞き従う民となるならば、先祖が住んでいた約束の地に連れ帰って、その人口を先祖たちよりも多く与えると約束されています。(申30:1~5)
6、「モアブ契約」は終末のイスラエルに対しては無条件契約となっている
ここまでのモアブ契約の祝福か呪いかは、無条件契約ではなく「条件契約」として語られていますが、30章6節~8節では、世界の散らされたユダヤ人が、神に聞き従う民となるのは、神さまの一方的な恵みの御業である事が教えられています。「30:6 あなたの神、【主】は、あなたの心と、あなたの子孫の心を包む皮を切り捨てて、あなたが心を尽くし、精神を尽くし、あなたの神、【主】を愛し、それであなたが生きるようにされる。 30:7 あなたの神、【主】は、あなたを迫害したあなたの敵や、あなたの仇に、これらすべてののろいを下される。 30:8 あなたは、再び、【主】の御声に聞き従い、私が、きょう、あなたに命じる主のすべての命令を、行うようになる。」
終末のイスラエルが約束の地を受け継ぐに必要な従順な民となるという霊性が、神の一方的な恵みによって与えられる事は、モアブ契約は目の前のイスラエルの民に対して「条件契約」として提示されながらも、終末のイスラエルに対しては「無条件契約」として提示されているのです。
神に聞き従うならばという「条件」を神さまが終末のイスラエルの為に一方的に満たして祝福される事は、無条件と同じ意味になります。神さまの一方的な恵みによって従順な民とされた終末のユダヤ人の祝福が続けて教えられています。「申30:~14」。
7、無条件契約の「モアブ契約」の祝福はメシヤ的王国で実現する
イスラエルの民が、民族ごと改心し、土地の所有権だけでなく、実際に全てを所有し、その土地において豊かな祝福に与るのは、世の終わりに起きる出来事だと聖書は教えています。つまり、それは、多くの預言者が預言している「メシヤ的王国」において実現するのです。
①エゼキエルの枯れた骨の復活の預言
世の終わりにおける「イスラエルの大リバイバル」をエゼキエルは「枯れた骨」の出来事で預言しています。エゼキエルは、神さまから「干からびた枯れた骨」の幻を見せられます。干からびた枯れた骨は、キリストを信じていない霊的に死んでいるイスラエルの民の事を意味しています。現在、多くのイスラエルの人々がキリストをメシヤとして受け入れる事を拒否していますので、その人々はエゼキエルの預言では「干からびた枯れた骨」という事になります。しかし、その多くの干からびた枯れた骨が、音を立てて人間の体の骨組みが組み立てられ筋肉が付き、皮膚で覆われついに息が吹き込まれて甦ります。それが、終末時代のイスラエルが聖霊さまによって霊的にリバイバルされる事を預言しているのです(エゼ37:1~12)。終末のイスラエルの人々が、キリストを信じる信仰をもって、約束の地に帰還させられることも預言されています。「37:12 それゆえ、預言して彼らに言え。神である主はこう仰せられる。わたしの民よ。見よ。わたしはあなたがたの墓を開き、あなたがたをその墓から引き上げて、イスラエルの地に連れて行く」。
②イザヤとゼカリヤの預言
イスラエルの人々がエゼキエルの預言する「・・『私たちの骨は干からび、望みは消えうせ、私たちは断ち切られる』と言っている。・・」(37:11)という状況は、終末の時代にこの世界を支配する悪魔の息子である反キリストが登場し、世界の軍隊を使って、現在のイスラエルの国土荒らしながらユダヤ人を虐殺する時に起きます。その時、イスラエルの人々の3分の2が虐殺され、イスラエルは反キリストによって再び国を失い、生き残った3分の1のイスラエルの人々は再び世界に散って行き、絶望に追いやれる状況に追い込まれますゼカ13:8)。その時、イスラルの多くの人々がエドムのボツラに逃げる事がイザヤ書に預言されています。(イザ 34:6、63:1)
③キリストの預言
キリストがダニエル書に従って預言された終末に起こる「荒らす忌むべきものが聖所に立つのを見たならば山へ逃げなさい。その日が冬にならないように、安息日にならないように祈りなさい」という、預言は、反キリストによるユダヤ人虐殺の出来事の事を意味しています。
◆「マタ 24:15 それゆえ、預言者ダニエルによって語られたあの『荒らす憎むべき者』が、聖なる所に立つのを見たならば、(読者はよく読み取るように。) 24:16 そのときは、ユダヤにいる人々は山へ逃げなさい。 24:17 屋上にいる者は家の中の物を持ち出そうと下に降りてはいけません。 24:18 畑にいる者は着物を取りに戻ってはいけません。 24:19 だがその日、哀れなのは身重の女と乳飲み子を持つ女です。 24:20 ただ、あなたがたの逃げるのが、冬や安息日にならぬよう祈りなさい。
24:21 そのときには、世の初めから、今に至るまで、いまだかつてなかったような、またこれからもないような、ひどい苦難があるからです」
④黙示録の預言
反キリストの軍隊がボツラに逃げ込んだイスラエルを滅ぼうそうとしている時に、再臨のキリストが反キリストの軍隊をボツラで滅ぼされる事がイザ 34:6、63:1で預言されています。その事が黙示録やパウロ書簡でも詳細に預言されています。再臨のキリストは来臨の栄光の輝きと口の息を剣(Ⅱテサ2:8)として、反キリストの軍隊を滅ぼし尽くされますが、その為に、エルサレムからボツラ迄の約300㎞に渡り、人間の腰のまでの高さまで、反キリストの軍隊の兵士たちが流す血が満ちる「血の海」となるのです(黙14:20)。その時、猛禽類の鳥たちの大宴会になるのです。(黙19:11~21)
8、残された3分1のユダヤ人の霊的リバイバルの預言
残された3分の1のユダヤ人は、既にキリストをメシヤとして信じているユダヤ人と異邦人の愛の奉仕と祈りの積み重ねで、ついにイスラエルが神の一方的な恵みによってキリストを信じる時がやってきます。そのリバイバルが申命記30章に預言されています(申306~8)・また、エゼキエル書の「枯れた骨の預言」が成就するのです。先祖のキリストを十字架につけた罪を、終末の残りの3分の1のイスラエル全民族が自分の罪として徹底して悔い改める事が預言されていす。「ゼカ12:10 わたしは、ダビデの家とエルサレムの住民の上に、恵みと哀願の霊を注ぐ。彼らは、自分たちが突き刺した者、わたしを仰ぎ見、ひとり子を失って嘆くように、その者のために嘆き、初子を失って激しく泣くように、その者のために激しく泣く。 ・・」。、その人たちのことをゼカリヤは次のように教えています。「ゼカ13:9 わたしは、その三分の一を火の中に入れ、銀を練るように彼らを練り、金をためすように彼らをためす。彼らはわたしの名を呼び、わたしは彼らに答える。わたしは「これはわたしの民」と言い、彼らは「【主】は私の神」と言う」と。
9、モアブ契約のおさらい
モアブ契約では、アブラハムとイサクとヤコブと結ばれた「アブラハム契約」の無条件契約の条項の「土地の付与」は、あくまでも「所有権」にとどまっている事を教えています。又、その土地の実際の全面的所有とその土地で祝福を受けるには、神さまに聞き従うという条件を満たすことが必要だという事も教えられています。しかし、イスラエルはその条件満たす事がなく、呪われて離散の民という苦難の道を事が預言されています。その苦難の先々の国々で、罪を悔い改めて神さまに聞き従うという条件を満たすならば、その苦難の地から、約束の地へ帰還させて祝福すると約束されました。しかし、苦難の先々で罪を悔い改め、神に聞きしたが民となるという条件を満たす民となるのは、イスラエルの民の力によるのでなく、神さまの一方的な恵みによってそれが実現し、約束の地の実質的全面的所有とその土地における祝福を受ける事が預言されています。その事は、祝福か呪いかという「モアブ契約」は従順か不従順かという条件契約として語られながら、終末のイスラエルに対しては、神の一方的な恵みによって「約束の地」の全面的所有と祝福を受けるために必要な「従順」が約束されているので、実質的には無条件契約となっている事が分かります。
【終わりに】
少し、理解する事に難しいモアブ契約ですが、その契約を誰よりもよく知っていたのはパウロでした。やがて「モアブ契約」により、悔い改める時が全てのイスラエルの民にやって来て、全てのユダヤ人が十字架につけたキリストをメシヤだと心から信じる時が来る事をパウロは知っていました。パウロの時代の多くのユダヤ人がまるで「干からびた枯れた骨」のようになっている事を思い、その哀れな同胞のユダヤ人を思うと、パウロの心は痛み断腸の思いで彼らの救いと祝福を祈ったのです。そのパウロの祈りを父なる神は聞いておられます。その彼の祈りや私たちの祈りに必ずお答えになって、「イスラエル民族がみな救われる」(ローマ11:26)と言う預言を神が奇跡をもって実現させられるのです。イスラエルの救いと祝福を祈る人は「祝福される」という、アブラハム契約に従って、あなたも、キリストを信じて「イスラエルを祝福する」人として救われますようにお祈りしています。